PROJECT STORY #04

安威川ダムプロジェクト

PROJECT STORY #04

安威川ダム

安威川ダムプロジェクト

岩積みの美しい都市型ダムが、
洪水から人々を守り、
環境を潤わす。

OUTLINE

山あいに岩積みの美しい姿をあらわした安威川ダム。コンクリートではなく、石や岩石を主材料につくられており、大阪府茨木市の市街地から車で20分ほどの場所に位置する全国でもめずらしい都市型のダムです。令和5年(2023年)に供用開始を予定。令和6年には、北摂のシンボルとして、全長410mとなる長さ日本一となる吊り橋や、晴れた日に大阪市街まで見渡せるスカイウォークなど、さまざまな周辺施設もオープンする予定です。
この安威川ダムの構想がスタートしたのは、今から半世紀以上前。昭和42年(1967年)7月、死傷者61名をふくむ甚大な水害をもたらした北摂豪雨災害がきっかけでした。下流域の人たちを洪水から守り、環境保全はもちろん、観光レクリエーションのスポットとして山とまちをつなぎ、茨木市全体に新たな価値を生み出していく。安威川ダムは、ニュージェックが長い時間をかけて全社一丸で取り組んできた大規模プロジェクトです。

MEMBER

赤松 利之

赤松 利之

河川部門
ダムグループ

プロジェクトリーダー。2002年より参加、ダム設計、施工計画、積算、安威川ダムに関わる社外活動を担当。

下山 顕治

下山 顕治

河川部門
ダムグループ
耐震チーム

水源計画変更に伴う利水計画の変更業務や、施工段階での耐震性能照査を担当。

吉田 諭司

吉田 諭司

河川部門
ダムグループ
設計チーム

ダム本体の実施設計や施工計画。施工段階では施工結果の基礎処理解析を担当。

山下 貴裕

山下 貴裕

河川部門
ダムグループ
設計チーム

ダム本体発注に向けた積算業務や施工設備設計、施工段階では修正設計を担当。

根岸 利之

根岸 利之

河川部門
ダムグループ
鉄構チーム

取水放流設備や試験湛水・閉鎖ゲートの詳細設計や機械設備設計を担当。

CHAPTER 01

100年に1度の大豪雨でも、下流域に安全を提供する。

ダム高76.5m。ダム堤頂の長さは337.5m。壮大な岩積みの美しいダムの姿が、ほぼ完成したのは令和3年(2021年)12月のこと。安威川ダムの構想から、すでに50年以上の時が経っていました。平成14年(2002年)から20年にわたって安威川ダムプロジェクトで活躍してきたプロジェクトリーダーの赤松は言います。
「大阪府北部を流れる安威川流域は、昔から洪水に悩まされてきました。昭和42年(1967年)7月、北摂豪雨によって死傷者61名、浸水家屋2万5000戸という大水害が起こったことを契機に、100年に1度の大雨でも治水によって町を安全に保つことができるよう、大阪府を事業主として安威川ダム事業が始まりました。ニュージェックは当初から安威川ダム建設事業に携わっていますが、ダム事業は、私たちダムだけでなく、河川、地圏、電気通信、建築などさまざまな技術を結集しないと成り立たないもので、総合建設コンサルタントといった強みを活かし、まさに全社で取り組んできた大規模プロジェクトなのです」。
昭和51年(1976年)にはダム建設に向けた調査に着手。平成5年(1993年)には付替道路工事へ。しかし平成17年(2005年)、着実に進んできたプロジェクトに大きな変更が入ります。「大阪府が水源計画の変更を行いました。安威川ダムは治水(洪水時に水の量を調整する)だけでなく利水(水道など水を利用する)を目的としたダムで、もともと利水機能として1日7万m³を計画としていましたが、1万m³と大幅な縮小となったのです」。
このとき、ダム規模の変更計画を担当していたのが下山です。「この水源計画の変更で、ダムの容量をどのくらい小さくすればいいのかをシミュレーションするのですが、その過程で、安威川ダム計画に携わる河川メンバーと一緒にダムサイトから神崎川まで歩いてまわりました。川にどのくらいの水量があれば景観的にきれいに見えるかも大事な要素。住民の方々へのアンケートも実施しました。数値的なデータだけでなく、目で確かめることも計画立案には大切なのです」。
水源計画を見直した結果、ダムの容量を縮小。必要なダムの高さは、従来82mだったものから、76.5mに変更になりました。

安威川ダムのあゆみ

昭和51年(1976年)
ダム建設に向けた調査に着手
昭和63年(1988年)
ダム建設のための工事に着手
平成5年(1993年)8月
付替道路工事に着手
平成17年(2005年)8月
府の水源計画変更(利水機能7万→1万m³/日に縮小:ダム高82m→76.5m)
平成21年(2009年)8月
水需要予測の見直しにより、安威川ダムから利水事業が撤退
平成22年(2010年)9月
付替道路の全区間供用開始、国よりダム建設事業の検証の要請
平成24年(2012年)6月
ダム建設事業の検証終了。事業継続
平成24年(2012年)12月
転流工工事の発注
平成26年(2014年)3月
ダム本体工事を発注
令和4年(2022年)9月
試験湛水開始
令和5年(2023年)
ダム供用開始予定

ニュージェックは、計画・調査・各種試験をはじめ、ダムサイト・ダム型式、ダム軸を定め、事業の検証やダム本体(機械、電気通信設備、建築含む)の設計・施工計画等を行い、転流工工事、本体工事の積算対応を行ってきました。工事開始以降は、合計100回を超える岩盤判定会議への対応・出席、現場条件に応じた修正設計、止水対策として実施されるグラウチング解析を実施してきました。今後は試験湛水中の堤体挙動に関わる計測・挙動解析を実施予定です。

CHAPTER 02

日本では前例がほぼない、トンネル式の常用洪水吐き。

ダムの容量と高さも決まり、ここから詳細なダム本体の実施設計や施工計画へ。赤松といっしょに設計を担当した吉田は、かなり難しい設計だったと振り返ります。
「ダムには"洪水吐き(こうずいばき)"と呼ばれる洪水時の流出ルートが2つあります。ひとつは"常用洪水吐き(※1)"で、もうひとつが"非常用洪水吐き(※2)"です。安威川ダムの洪水調節は人による操作ではなく、貯水位に応じてこの2つの洪水吐きから自然に流れていく「自然調節方式」を採用しています。
さて、この常用洪水吐きですが、普通のダムは地表に水路を設けてつくります。でも、これを安威川ダムでやろうとすれば、かなり下の位置に設けなければならず、大きく山を削ることになり膨大なコストがかかってしまう。それを回避するには、穴を掘ってトンネル式の常用洪水吐きにするしかありません。
しかし、常用洪水吐きのトンネル式なんて、構造的に複雑だし、日本にはほぼ事例がなかった。果たして出来るんだろうか。赤松さんに聞いたところ「まあ、やれんことはないだろう。挑戦してみようじゃないか」と(笑)」。
実際に1/40スケールというかなり大型の水理模型をつくって、実験を開始。水の流れや必要な構造を一つひとつ検証しながら、トンネル式常用洪水吐きの実現に向けて、課題をクリアしていったのです。

  • ※1)常用洪水吐き:常用洪水吐きはダムの治水計画の範囲内の降雨・出水があった場合、貯水池の水を安全に下流に流す施設です。
  • ※2)非常用洪水吐き:貯水池の水位がダムの高さを越えないように、ダムの治水計画を超える降雨・出水(超過洪水)があった場合でも貯水池の水を下流に流すことができる施設です。
洪水吐き・放流管縦断図

洪水吐き・放流管縦断図

洪水吐き・放流管俯瞰図

洪水吐き・放流管俯瞰図

非常用洪水吐き

非常用洪水吐き

常用洪水吐きトンネルの水理実験用模型(模型縮尺1/40)

常用洪水吐きトンネルの水理実験用模型(模型縮尺1/40)

CHAPTER 03

ダム高の変更危機に、"フラッシュ放流"で逆転打。

大阪府の水源計画変更から4年後となる平成21年(2009年)8月、赤松の耳に衝撃的な話が飛び込んできました。なんと水需要予測のさらなる見直しにより、利水事業の撤退が決定。4年前に1日1万m³と計画した利水容量が不要になるというのです。
これによって、必要なダム高はさらに2m下がり、74.6mになります。赤松はうなりました。
「ダム高76.5mで実験や設計が進んでいる中で、高さを2m下げるとなると、すべてやり直しになります。これまでかけてきた労力やコストが無駄になってしまう。それだけは避けたいという想いでした」。ダム高を変えずに、利水として必要だった容量を有効活用するにはどうすればいいか。ここからが赤松の腕の見せ所です。
「ダムの効果として、大きな洪水を止めますが、一方で日常の小さな出水も起こりにくくなってしまいます。河川に撹乱が起こらないため、下流河川の環境が変わってしまう懸念がある。そこで、ダムから人工的に放流し、魚など生物の住みよい環境をつくる。それを"フラッシュ放流"と呼び、昨今のダムの弾力運用として行われています。環境という観点を重視した都市型ダムだったので、この利水分を環境容量として"フラッシュ放流"に使えないか、といったアイデアを大阪府に提示しました。定期的にフラッシュ放流できる設備を兼ね備えたダムは、日本にまだありませんでしたが、環境保全を考えた時、これからのダムには必要になるかもしれないと考えたのです」。
この発案に、構造的な面からもフラッシュ放流設備が設置可能であることや環境への影響評価等の検証を重ね、ダム高を変えずに続行することが決定。これまでかけてきた期間や費用など無駄にならない。河川環境にもいい。安威川ダムは、河川環境の保全のための人工出水(フラッシュ放流)容量を持つダムとして、国が認定した日本初のダムとなりました。ピンチをチャンスへ。このことはプロジェクトにとって大きなターニングポイントになりました。

フラッシュ放流設備

フラッシュ放流設備

CHAPTER 04

1000枚を超える図面から、金額をはじきだす。

フラッシュ放流の妙案から、ちょうど1年ほど経った平成22年(2010年)8月。国から、ダムの必要性を検証する要請があり、安威川ダムもその対象に。「ここまできて、中止にさせてなるものか」という赤松の想いも後押しとなり、また、そもそも費用対効果の高い事業でもあったため、無事継続が認められました。
さあ、ここから工事に向けて、発注するための設計図書(図面や数量、仕様書など)が必要となってきます。これを作成していくのもプロジェクトの仕事。「このプロジェクトで一番苦労したのは積算かもしれません(笑)。工事費約250億円、工事発注用図面は1000枚を超えていましたから。どんな重機を使うのか。岩を運ぶためのダンプは何台必要か、汚れた排水の処理は?・・・工事にかかるすべてのお金を計算するという、気の遠くなる作業を、グループ内の設計メンバー全員体制で、1年がかりでやり遂げました(赤松)」。
後に施工段階の設計を担当する山下も、当時は入社2年目として積算をサポート。「今ではありえないですが、あの時は、いつ風呂に入れるかもわからない毎日を送っていました(笑)」。

CHAPTER 05

想定外の地層が、工事を足止めする。

平成26年(2014年)3月、いよいよダム本体工事を発注。「事前にしっかり調査を行うものの、どうしても施工に入ると、調査とは違う想定外が起こります。たとえば調査ボーリングの結果を地質専門家が読み解き、その上で私たちが設計をしていますが、実際に掘り進んでいくと、予想以上に風化が厚く、時には斜面の変状等も起きたり、調査段階には発見できなかった思わぬ弱層が出てきたり。場合によっては掘削ラインを変更しなければなりません。もし掘削ラインを変更すれば、納期やコストもかかる。どうすれば最適解になるか。発注者である大阪府や施工するゼネコンと協議、対処を重ねて行きました(赤松)」。
赤松とともにハード関連の修正設計を行った山下は、「施工段階ではすでにレイアウトが決まっています。修正設計は工事工程や施工時の安全性・形状変更の制約等を受けながら、どう課題をクリアするかが新規の設計にはない難しいところ。地質技術者とも連携しながら、現場で起きている状況を踏まえて改善策を検討するのに、ずいぶん苦労しました」。また、プロジェクトには、土木関連ばかりではなく機械担当もいます。取水放流設備や試験湛水用閉塞ゲートの設計を担当した根岸も、初めてのことが多く苦労したと言います。
「このダムの目玉となる"フラッシュ放流"の対象放流量を、大阪府と何度も協議しながら決めて行きました。放流量が少しでも変わると、必要なゲートのサイズが変わり、また付随する巻き上げ装置のモーターなどすべてが変わってくるので、かなり大変でした。ダムのゲートは決して壊れてはならないので、いつも緊張感を持って取り組んでいます」。

施工時

施工時

CHAPTER 06

試験湛水で、答え合わせを。

平成26年(2014年)から7年半。令和3年(2021年)12月、ついに盛立(岩を積み上げたダムの頂点)が完成。しかし、これで終わりではありません。ここから実際にダムに水を貯める"試験湛水"が、令和4年(2022年)夏からスタート。試験湛水では、治水計画上の最高水位(サーチャージャー水位)まで水を溜めて、その後、普通の水位(常時満水位―最低水位)まで下降させ、堤体や貯水池周辺斜面の安全性を確認。試験湛水による検証を経て、令和5年(2023年)にダム供用することで、50年以上に亘って続いてきたニュージェックの安威川ダムプロジェクトも、やっと終焉となるのです。
現在、施工結果の解析を行なっている吉田は言います。「私たちは、試験湛水を"答え合わせ"と言います。試験湛水で問題がなければ、技術者として誇らしい気持ちになる。少なくともやり直しのない合格点をとりたいですね」。
20年以上にわたり活躍してきたプロジェクトリーダーの赤松は、「試験湛水で最高水位になり、非常用洪水吐きから水が流れでる姿をみる。それがダム屋としていちばん感動的な瞬間であり、楽しみにしています。本来、安威川ダムの非常用洪水吐きが活躍するのは、100年に1度の大豪雨の際。試験湛水以外で、お目にかからないことを祈ります」。
諦めることなく困難な状況に立ち向かうニュージェックの"くろよんスピリッツ"を発揮して、全社一丸となった体制で数々の壁を超えてきた安威川ダムプロジェクト。安威川ダムは、流域の浸水被害を抑制し、人命や人々の土地、財産を守り、また、北摂のシンボルとして愛される観光スポットに、きっとなるはずです。