プロジェクト
ストーリー

PROJECT
STORY 01
阪神高速6号大和川線 三宝ジャンクション

阪神高速6号大和川線

混雑を緩和し、物流をスムーズに。
長大な地下トンネルで貫く
高速道路を。

OUTLINE

令和2年3月29日に開通した阪神高速6号大和川線は、大阪府堺市と松原市を東西に結ぶ、9.7kmの高速道路。4号湾岸線と14号松原線に接続しており、物流拠点が集まる大阪臨界部と、製造業が立ち並ぶ西名阪自動車道沿線など内陸部とのアクセスを一気に向上させ、都心部や一般道の渋滞・混雑の緩和に寄与することが期待されています。
最大の特徴は、環境面への配慮などから、そのほとんどが地下に建設されるトンネル構造になっていること。大阪都心部の地下には、電気やガス、通信インフラはもちろん、地下鉄など大型の埋設物も多く、トンネルを通すことは容易ではありません。また、長い地下トンネルで大規模火災が発生するなどもしもの際に、誰もが安全に避難できるかどうか、他の道路構造にはない安全性が求められます。これら多くの難題に、20年近くにわたって挑んできたのがニュージェックの道路グループです。

MEMBER

  • 水口 尚司 水口 尚司 交通・都市部門 2001年より技術管理者として参加。ニュージェックのプロジェクト全体を統括。
  • 義永 茂司 義永 茂司 交通・都市部門
    道路グループ
    道路第二チーム
    トンネル区間に関する各シミュレーションや構造計画、一部の設計業務を担当。
  • 井上 雅晴 井上 雅晴 交通・都市部門
    道路グループ
    道路第二チーム
    道路線形の決定や横断構成策定、火災時の避難誘導方法、誘導案内の検討や設計を担当。
  • 川崎 順二 川崎 順二 交通・都市部門
    道路グループ
    避難実証実験やシミュレーションをもとに避難者と救助者のタイムライン検証などを実施。
  • 玉置 志朗 玉置 志朗 交通・都市部門
    道路グループ
    橋梁チーム
    大和川線から国道を立体交差し、阪神高速松原線へ接続する橋梁部分の設計を担当。

CHAPTER 1

大阪都市の地下に伸びる、
長大トンネルへの挑戦。

阪神高速大和川線は、平成12年(2000年)に都市計画事業承認がなされ、ニュージェックはその翌年より、発注者である阪神高速道路株式会社や大阪府などとともに、開発に携わってきました。当初からメンバーの一人として、さまざまな設計や検討に関わってきた水口尚司は言います。
「大和川線の大きな特徴は、全長9.7kmのほとんどを地下トンネルで構成していることです。これまで大阪の高速道路は、ほとんどが高架形式でした。しかし、大和川線は大和川に沿って計画され、堤防の補強、景観の保全、周辺環境への影響などを重視し、地下トンネル形式となりました。当時、都市部において、これだけ長大な地下トンネルは、首都圏でもわずかな例があるだけで、関西では初めて。当初の計画通りに進めていった際、全体の構造や施工に問題はないか。あるいは経済的な側面から見直すべき点はないか。長い地下トンネルで火災が起こった際、防災や安全性をどう担保し、運営していくのか。周辺環境との調和をどうするか。初めての長大トンネルを相手に、噴出する数々の課題と向き合い、概略設計から予備設計、詳細設計、防災検討業務など開通直前まで対応してきました。」

全体図

全体図

大和川線におけるニュージェックの主な取組み

  • 平成13年(2001年)~
    全体計画における構造等の検討など
  • 平成17年(2005年)~
    天美区間、常盤西区間の予備設計、詳細設計など
  • 平成20年(2008年)~
    トンネル防災検討など
  • 平成29年(2017年)~
    避難誘導等の詳細検討など
  • 令和2年(2020年)
    3月29日
    供用 阪神高速6号大和川線 開通
  • 平成20年度業務/平成29年度業務において
    阪神高速道路株式会社様より業務表彰をいただきました。

6号線 平面図

6号線 平面図

CHAPTER 2

地下トンネルの行く手を
阻むもの。

都心部の地下にトンネルを掘る。それは、電気やガス、水道、通信などさまざまな埋設物とどう折り合いをつけていくか、ということでもあります。トンネルの専門家として大和川線に参加した義永茂司は言います。
「大和川線のシールドトンネルは、ライフラインのトンネルと異なり直径が12メートルにもなる大口径のトンネルとなります。この大きなトンネルを大和川というルートに沿ってどう構築していくのか。たとえば常盤出入口の付近には、地下鉄御堂筋線が通っており、どうすれば干渉せずに進められるのか。線形や深さをどう計画するのか。強度を確保するための構造部材をどの程度の規模とするのか。その検討が非常に難しく、数少ない国内事例や文献などを調べながら手探りで構造検討を行いました。また、開削トンネルの設計を担当した天美シールド立坑部では、29メートルの掘削深さに対して近鉄南大阪線の軌道が近接するため、地表面沈下などの影響について解析を行い、土留め壁のたわみが小さくなる部材を使うなど工夫を重ねました。また、ボックスカルバート区間では、本線部とランプの接続形状(断面幅、深さ、ランプ平面位置等)が2連ボックス→3連ボックス→4連ボックスと複雑に変化する構造に対して適切なモデル化を行い、応答震度法による評価を実施の上、耐震性を確保した構造設計を行いました。
ニュージェックの歴史上、この規模の道路トンネルを計画、設計するのは初めてだと思う。それを自分たちの手で担えたことで、大きな達成感を味わうことができました。」

大和川線のトンネルは、2種類のトンネルから構成されています。

  • シールドトンネル
    シールドトンネル シールドマシンと呼ばれる円筒状に掘る機械を使ってつくるトンネル。大和川線の4割がシールドトンネルです。
  • 開削トンネル
    開削トンネル 地上から地盤を掘削してトンネルをつくり、最後に上部を土で埋め戻してつくります。地表付近の浅いトンネルなどが適しています。

CHAPTER 3

経済性を考え、工夫を重ねる。

立案された計画を実現するために、経済的な観点から検討していくことは、建設コンサルタントの役割のひとつです。安全安心を最優先しながら、コストを圧縮してく。橋梁の専門家である玉置志朗も、担当した橋梁設計で経済的な観点から工夫を重ねました。
「担当したのは大和川線の一番東側、阪神高速14号松原線に接続する高架橋です。一般的に橋の幅といえば10メートル程度ですが、そこは料金所との関係で幅員が39メートルもあり、橋の長さと同じくらい。正方形に近いかたちでした。橋は高速道路本体の上部工と、橋の土台となる下部工に分かれますが、上部工については、1日に打てるコンクリート量から、どのように分割すれば、構造性や経済性、施工性などの観点からベストなのかを比較検討。とくに価格経済性で優位となる、橋軸方向に3分割する方法を選びました。
また、橋の土台となる下部工も、幅員が広くなるため、壁のような構造だとコンクリートのボリュームが大きくなりコストがかかるだけでなく、乾燥収縮の影響も大きくなります。そこで、門型ラーメン構造にして、PC鋼材を入れる方法に。景観性も大切ですから、半円形の型枠を利用して角に丸みを持たせながら、コンクリート橋の角張ったイメージを柔らくしてみました。経済性を意識しながらも、できるところで工夫する。そこにやりがいを感じます。」

CHAPTER 4

滑り台で避難する、
前例のない防災。

「大和川線に20年近くかかわってきた中で、もっとも難しかったのはトンネル防災の検討でした。国内の事例も少なく、我々の中に専門家がいるわけでもない。そんな中で、防災の運用方針を定める必要があったのです。」(水口)
長い地下トンネルで、もし大規模な火災が起こったら、煙はどう拡散していくのか。その中でどのように人々の安全性を確保すればいいのか。どんな設備が必要で、どんな手順で避難すればいいのか。さまざまな検討事項についてシミュレーションを行い、避難誘導シナリオ作成を担当してきたのが川崎順二です。
「大和川線は、関西初の“すべり台式避難施設”を用いたトンネルです。もともとは並行して走る反対側のトンネルに横移動して避難する方式が検討されていましたが、より安全性を追求した検討が重ねられた結果、シールドトンネルの道路下部に降りてからは地上につながる立坑を利用して避難する方法に変わりました。その変更を受けたのが平成29年。開通まであと3年しかない上に、決まった計画基準や図集もありません。そこで、関連文献や国内外事例を参考に、社内のメンバーや発注者様と幾度も議論を重ねながら検討を行いました。想定したタイムラインの検証方法が課題でしたが、工事中のトンネルでの実証実験はできませんので、学生時代からお世話になっている京都大学の後藤仁志先生の研究グループと共同研究している“個別要素法型群集行動シミュレータ”を使って火災時の人の動きなどを解析することを提案しました。このシミュレータでは、避難者や救助者が3次元の仮想空間を自由に行動できるため、火災発生から地下へ避難し、複雑な地下空間を通って地上に到達するまでの渋滞の有無の確認や所要時間の算出をしたりして、タイムラインの作成と避難誘導方法の検証を高精度に行えました。
トンネル完成後は実物での実証実験による検証を行いました。一般協力者や関係者をはじめ、子どもからお年寄りまで参加していただき、実際に火災が起こったと想定して避難してもらいました。想定したタイムラインどおりに安全かつ円滑に避難ができて、ほっとしましたね。非常にハードな毎日でしたが、前例もマニュアルもない分、やりがいがありました。久しぶりに技術者らしい仕事ですねと発注者様とお話ししていました。技術者冥利につきる仕事でした。」

  • すべり台式避難施設
  • すべり台式避難施設
    すべり台式避難施設 非常口の扉を開いたところにあるすべり台を使って、安全な道路下の空間へ。避難経路を歩いて、地上へと出ます。
  • シミュレーション検討例
    シミュレーション検討例

CHAPTER 5

開通前日まで、現場で粘る。

避難の誘導方法が決まっていくと同時に、トンネル内に案内や標識を実装していく必要があります。おそらく初めてであるすべり台の避難方式を素早く理解していただくために、どういう標識や案内があればいいのか。その計画やデザインなどを担当したのが、井上雅晴です。
「火災時には、避難方式を知らない方、インバウンドの方、弱視の方など多くの方が避難されます。それでも、非常口であり、すべり台で降りることがパッとわかるようなビジュアルや色彩を定めたデザインコードを設定しました。経路など壁の表示だけでは隠れて見えなくなる可能性があるので、床にも表示するなど気を配りました。

また標識だけでなく、車椅子の方など障害のある方もスムーズに滑り、立ち上がれるように、どこに手すりをつければいいのか。滑り降りた時に、体を痛めないようにどんなクッションを敷けばいいのか。避難経路を移動する際に、お年寄りの方などが休憩できるようにベンチをどう配置するのか。考えることは山のようにあり、発注者の皆さんと、ひとつひとつ検討していきました。「あ、この表示が正面にあると、見た人が立ち止まってしまうので、ちょっとずらした方がいいかな。」とか、実際に現場を見ないとわからないことも多く、やはり現場は大切ですね。
細かな部分での最終調整も多かったので、本当に開通前日まで発注者さんと現場を駆け回っていました。入社2、3年目の若手メンバーとともに担当しましたが、彼らにとっても自分が設計してきたものが実際に現場で出来上がっていく姿を目の当たりにして、大きな刺激になったと思います。」

CHAPTER 6

使われないことがベスト。

無事発注主への供用も終え、令和2年3月29日、阪神高速6号大和川線は開通へ。コロナ禍の影響もあり高速道路の交通量が一時的に減る中で、大和川線は開通以来、順調に交通量を伸ばしています。
「開通から1年以上経ちますが、大きな事故もなく安心しています。トンネル防災の検討には苦労しましたが、防災設備やマニュアルは使われないことがベストですね。」(水口)
大和川という自然を活かし、景観や住環境を考慮するために、ニュージェックの持てる技術や知見を総動員して挑み続けてきた大和川線のプロジェクト。大和川線の存在が、大阪における交通の利便性や物流の効率化を促進し、経済を活性化することで、人々の暮らしを便利に豊かに変えていく。それはまさに、ニュージェックのキャッチコピー「自然と人を技術で結ぶ」が目指す、あるべき姿のひとつと言えるでしょう。

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