STORY 02
ディエン小型地熱発電所建設プロジェクト
コロナ禍を乗り越え、
地球の鼓動を、インドネシアの
エネルギーへ。
OUTLINE
インドネシアのジャワ島中部にある標高2000mに位置するディエン高原。2021年7月、このディエンに小型地熱発電所が完工しました。地熱発電は、再生可能エネルギーの中でも安定的な発電が可能なベースロード電源で、同等の火力発電所と比べても二酸化炭素の排出を抑制することができます。インドネシアは世界第2位の地熱資源量を保有する国。ますます開発の活性化が予想されています。ニュージェックでは、これまで蓄積してきた電力やインフラに関する技術やノウハウを活かし、ディエン小型地熱発電所を完工・商用運転開始までコンサルティング。しかし、ニュージェックにとって初めてとなる地熱発電の施工監理業務は、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)との戦いでもありました。
MEMBER
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伊藤 誠治
国際事業本部
国際事業部
土木・環境技術グループ
土木チーム プロジェクトマネジメント担当。ニュージェックに新卒で入社後は、世界水フォーラム事務局や国連で勤務し、水環境を中心に持続可能な開発を取り扱う。2013年より、国際本部へ。 -
伊澤 清
国際事業本部
国際事業部
国際統括グループ
ジャカルタ事務所 2015年よりジャカルタ事務所長、施工管理段階では電気機械技術担当として参加。元メーカー出身で、水力発電プラントの経験が豊富。インドネシアとの関わりも25年に及ぶ。 -
太田 仁志
国際事業本部
国際事業部
エネルギー・
電力技術グループ
電気チーム 再生エネルギーを利用した発電システムの技術担当。メーカー勤務を経て、2019年にニュージェックに入社。学生時代を含め再生可能エネルギーに30年以上関わっている。
CHAPTER 1
施工監理まで受託した、
初の地熱発電プロジェクト。
クリーン・エネルギーとして注目を浴びる地熱発電。ニュージェックでは、2012年ごろから、地熱発電に対する取り組みを、国内、国際本部が共同で開始。地下開発から上部プラント設計の施工監理まで一気通貫でプロジェクトを実施できる技術と体制を構築してきました。
今回、インドネシアのディエンで新たに増設された小型地熱発電所は、その実力を試すべく、ニュージェックにとって完工、商用運転開始までコンサルティングした初めてのプロジェクト。その指揮をとったのが、伊藤誠治です。
「もともとディエン地熱地域では、1998年から地熱発電所が商業運転を開始しており、現在はジオ・ディパ・エナジー(GDE)社によって運転が行われています。既存発電所の定格出力は60MWあるのですが、プラントの老朽化などで定格の5割から7割程度で運転していました。つまり蒸気が余っており、余剰蒸気を利用して設備増強を図ることを、タービン発電機メーカーの協力を得ながら提案。めでたく採択されて、“ディエン小型地熱発電プロジェクト”としてスタートを切りました。2017年に基本設計、2018年には調達支援業務、そして、2019年から施工監理業務を受注。これはニュージェックにとっても初の地熱発電所の施工監理業務であり、またODA(政府開発援助)ではない海外民間事業者との初めてのプロジェクトになりました。」
インドネシア ジャワ島中部にあるディエン
ニュージェックの主な取組み
*印はコロナでの影響
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- 2017年
- 基本設計
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- 2018年
- 調達支援
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- 2018年10月
- コントラクター決定、業務開始
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- 2019年11月
- 施工監理業務開始
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- 2020年2月
- 地鎮祭
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- *2020年4月
- COVID−19により日本へ退避
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- 2020年8-9月
- 工場検査
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- *2020年10月
- 再渡航するもジャカルタで待機状態
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- *2020年12月
- ディエンに復帰
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- 2021年3月
- 機材据付完了
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- 2021年4月
- 初回転式典
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- *2021年5月
- 制御室現場でクラスター発生
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- 2021年7月
- 事業者への引渡、商業運転開始
CHAPTER 2
鎮守祭を終えた頃、
世界に暗雲が立ち込める。
事業者GDE社、コンストラクター、そしてニュージェックと地元コンサルタントで結成されたProject Management Consultant(PMC)の三者で進めていく小型地熱発電所建設。2020年2月に、地鎮祭を実施して「さあこれから本格的な工事を始めよう。」という中で、プロジェクトに大きな暗雲が立ち込めます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)です。
「鎮守祭から2ヶ月後の2020年4月には、我々も日本への退避を余儀なくされました。このプロジェクトの期間中、ずっとCOVID-19の状況と工事工程を見比べながら、影響をいかに最小限にできるかを考え、事業者やコントラクター(施工業者)、メーカーと調整するのに、とにかく苦心しました。」(伊藤)
ジャカルタ所長で電気機械技術者でもある伊澤清も、奮闘する伊藤を長年の知見でサポート。「コロナ禍でも、いい品質の発電プラントをできる限り早く納めること。我々も事業者もコンストラクターも、目的は同じなんです。その過程で、お互いに違う意見もあるわけで、そこは喧嘩になっても、忌憚なく言い合うべき。それが最終的な信頼につながる。伊藤くんもそういう思いでやっていましたね。お互いの思いをぶつけ合い、ワンチームになれたことが、後々効いてきたんじゃないでしょうか。」
CHAPTER 3
工事完了まであと1ヶ月で、
クラスター発生。
冷却塔や蒸気配管を建て、タービン発電機や制御装置などを据え付ける。しかし、発電プラントを組み上げただけでは、思い通りには動きません。特に水蒸気は自然由来なのでコントロールが難しい。現地で顔を合わせて話し合えない中、思い通りの性能を出すために、細かな調整をどう進めていくのか。伊藤は、リモート環境下からの監理を、タイムリーなオンライン会議の開催や、ローカルスタッフにきめ細かく動画を撮影してもらいチェックするなど、試行錯誤を重ねながら進行していきました。伊澤とともに電気技術の専門家として日本から現地のチェックを担当した太田仁志は言います。
「私は発電機やタービン、制御装置など試験結果のレビューや、不具合などの問い合わせを日本からサポートしました。現場の写真や動画をチェックしたり、バーチャルグラスを用いて現場の細かな箇所をリモートで確認するなど、予定通りのポテンシャルを発揮できるように調整していきました。このようなIT技術を使った現場確認は大きな進歩かも知れません。ただ本来は機械に触り、音や振動、匂いなど五感でわかることも多く、現場に行くことができない苦労はありましたね。」
2021年4月、いよいよ蒸気をタービンに入れた初回転を実施し、その後は試運転へ。なんとか完工まであと1ヶ月という5月初旬、制御室でモニターを行っていたメンバーを中心にCOVID-19のクラスターが発生。30名以上が感染し、4週間ほどストップせざるを得ない状態になりました。「あと少しというところでまたクラスターか、と。私も隔離生活を送る中で、事業者、コントラクター、我々の三者が、お互いに協力しながらどう進めていくかを徹底的に話し合いました。大変な状況でしたが、リモートをうまく使って最後の試験を続けるなど、なんとか乗り切ることができた。その根底にはやはり、これまで苦しい状況で戦ってきた三者の信頼関係があったからだと思います。」(伊藤)
CHAPTER 4
地熱を利用して、カーボンニュートラルな社会へ。
2019年11月よりスタートした施工監理業務は、当初の計画より3ヶ月遅れて、2021年7月に完工、商業運転を開始しました。
「他の海外プロジェクトは、COVID-19の影響で1年遅れは当たり前の状態。その中で、3ヶ月遅れで済んだのは奇跡的かもしれませんね。このことはインドネシア国内でも大きな評価を得ています。なにより未だ電力の足りない地域が多いインドネシアにおいて、発電設備を完成させたことは当地社会にも大きく貢献できたと確信しています。」(伊澤)
「最初に蒸気タービンが回りはじめた瞬間、心が震えましたね。日本製のタービンは技術力が高く静かなので、耳をそば立てないと回っているのかわからないですが。(笑) 数日後には発電機とつながり、電気が送られていく。ああ、このために頑張ってきたんだなと、苦労が報われた気がしました。」(伊藤)
「インドネシアの豊富な地熱エネルギーを利用して、今回のような小規模地熱発電をさらに普及させるための、一つのモデルケースになるのではないでしょうか。」(太田)
日本でも「2050年カーボンニュートラル」の宣言などに伴い、再生可能エネルギー技術の導入はますます注目を集めるでしょう。ニュージェックでは、今後も持続可能な社会の実現に不可欠な、クリーン・エネルギーの普及に向けて、国内外で地熱発電開発のサポートに、積極的に取り組んでいきます。