プロジェクト
ストーリー

PROJECT
STORY 06
相楽中部消防組合 新消防庁舎建設プロジェクト 相楽中部消防組合消防本部 本庁外観パース

相楽中部消防組合
新消防庁舎建設
プロジェクト

安心安全はもちろん、
地域らしさを表現し、
住民から長く愛される
消防庁舎を目指す。

OUTLINE

京都の南に位置する木津川市など1市2町1村から構成される相楽中部消防組合の各構成署所。とりわけ消防本部(消防署)庁舎は建設から50年近くが経過し、老朽化や耐震性能の不足、浸水の懸念など、早急な対応が望まれていました。住民の安心安全を守る消防署だからこそ、地震や災害にも強い建物へ。また、住む人や使う人から長く愛されるシンボルへ。消防署という特殊な建物ゆえの課題をクリアし、地域らしさを表現する。ニュージェックの建築グループの取り組みをご紹介しましょう。

MEMBER

  • 小田 文武 小田 文武 建築グループ
    建築設計第一チーム
    建築チームだけでなく、造成や外構を行う土木チーム(都市・上下水道グループ/公園緑地チーム)も含め、管理技術者として全体を統括。また発注者や関係者などの顧客対応や調整を担当。
  • 安川 雅巳 安川 雅巳 建築グループ
    建築設計第二チーム
    建築意匠設計をメインに、建築設計チームのリーダーとして構造設計担当や設備関係担当のマネジメントも行った。
  • 秋山 裕香 秋山 裕香 海外研修グループ
    (業務当時は建築グループ)
    建築意匠設計を担当。新人ながら、“柿渋染”を取り入れるなど地域らしい文化を活かした意匠設計を提案した。
  • 牧野 喜一 牧野 喜一 建築グループ
    建築構造第一チーム
    主に庁舎の構造設計を担当。また付属棟、外構の構造設計を担当するメンバーのマネジメントも行った。
  • 秋山 裕香 山中 慎太朗 建築グループ
    建築電気設備チーム
    受変電設備、非常用発電設備、通信設備、照明やコンセントなど電気設備設計を一手に受け持った。

CHAPTER 1

大雨や南海トラフ地震など
大規模災害に対応できる
新庁舎へ。

京都府の南部に位置し、奈良県とも隣接する木津川市。木津川市とともに、笠置町、和束町、南山城村の1市2町1村によって構成される相楽中部消防組合の各構成署所は、庁舎の老朽化により建て替えの時期が迫っていました。とりわけ消防本部(消防署)庁舎は、建設から50年近くが経過し、老朽化や耐震性の不足に加えて、一級河川木津川が増水した際の浸水想定区域に位置しており、防災の観点からも早急な整備が望まれていました。
このようなさまざまな課題を解決し、住民の方々の安全安心な暮らしを守るために、消防本部新庁舎の建設が決定。令和3年5月、ニュージェックは建設設計と造成や外構などの土木設計で参画することになりました。建築と土木領域を同時に設計できるのは、総合建設コンサルタントとしての大きな強み。建築そして土木設計を行う本プロジェクト全体を統括したのが、建築グループ建築設計第一チームの小田です。
「大規模地震や浸水など防災に強い建物をつくるのは当然ですが、消防署員の方々にとって使いやすいものであること。そして、子どもたちも見学に来ますし、地域の住民の方々に安心安全を提供し、長く愛される庁舎にしていくことを目指しました」。

位置図(相楽消防組合HPより、国土地理院の地図を加工)

位置図

新消防庁舎の概要

  • 場所
    木津川市城山台9丁目
  • 構造
    鉄筋コンクリート3階建
    (ガレージ部)鉄骨造
  • 敷地面積
    約15,600m2
  • 延べ面積
    約5,390m2
    (本庁舎棟 4,586m2
  • 施設の特徴
    傾斜地を活用し、住宅地と距離を取り圧迫感、騒音を軽減しています。

CHAPTER 2

基本設計を、一からやり直す。

建築や土木の基本設計は、基本構想を元に設計していきます。ところが、いざ設計を進める段階になって基本構想(他社が策定)に大きな見直しが入りました。「もっとこうしたい」という職員の方々の要望がカバーしきれていなかったことや、近隣住民の方々からの意見を伺う中で、建物を建てる位置や内容などを再検討したいという話になったのです。当時を振り返って、小田は「同じつくるのであれば、やっぱりいいものをつくりたいと私たちも思いました。従来のスケジュールや予算では厳しいものもあったので、消防本部や関係者のご理解も得ながら進めていきました。

鳥瞰図
鳥瞰図

特に近隣住民の方に安心いただけるよう設計には気を配りましたね。今回、建設する土地は国道163号線から少し入った場所になっており、緊急車両の出庫を考えると車庫はできるだけ国道に近い方がいい。ただ、その周辺や国道の反対側には住宅街があります。車庫や庁舎をどこに置くか。非常に難しい問題でしたが、議論する中で、やはり車庫を国道から近い入り口に決めました。消防も救急も1分1秒を争いますから。その代わり、庁舎に壁を設け、機械設備に防音壁をつくるなど遮音性を高めたり、入り口に近い車庫は1階だけにして奥側に3階建の庁舎、最も奥に訓練施設をつくることで圧迫感をなくす工夫をしました」。
基本設計を進めながら、署員の担当者さんと一緒に住民の方々に説明し、納得いただくことも建築チームの大切な仕事だと言います。

鳥瞰図
鳥瞰図

CHAPTER 3

いかに早く出動できるか、
動線のパズルを解く。

署員がいかに早く車庫にたどり着き、出動できるか。その動線設計は新庁舎の建築設計において最重要ポイントと言えるでしょう。今回、建築設計のリーダーを務めた安川は言います。
「普段、署員は事務室や仮眠室などにいますが、出動する際には必ず“出動準備室(着替えなどをする部屋)”を通って、緊急車両へとアプローチします。どの場所からも“出動準備室”に最短で着けるレイアウトを考える必要があるのですが、同時に新庁舎自体の防災も考えなければなりません。つまり、もしも新庁舎が火災になった際、階段から屋外に逃げるルートの確保など法令的に満たさなければならない条件があるわけです。それらをクリアしながら、最短距離をはじき出す。まるで難解なパズルのようでしたが、それが面白さでもありましたね」。

訓練棟
訓練棟

電気関係の設備設計を担当した山中も、普段の建築にはない工夫があったと言います。
「たとえば仮眠室。夜間に119番があった場合、仮眠している署員を確実に起こさなければなりません。そのために、一斉に放送して呼び出す仮眠呼出設備や、万一起きない署員がいた場合、フラッシュライトで目覚めを促すような仕組みにするなど、いただいた要望をもとに設備メーカーとともに提案していきました。お客様は消防組合の方なので、建築や電気設備の専門知識がなくてもイメージが湧きやすいように写真や図などを使って共通認識が持てるように工夫を凝らしました」。

訓練棟
訓練棟

CHAPTER 4

車庫の柱を無くしながら、
強度を保つには。

地域を守る拠点として、耐震性など強さが求められる新庁舎。ただ強くするだけだと多くの部材が必要になり、コストが跳ね上がってしまいます。求められる基準をクリアしながら、予算に収めていくには知恵と技術が必要。今回、建物の構造設計を担当した牧野も、その複雑さに汗をかいたと言います。
「たとえば1階の車庫。なるべく柱を少なくする方が、緊急車両の出入りや署員の移動もスムーズになります。しかし、支点となる柱がなくなれば大スパン(柱と柱の間が長いこと)となるため、梁(はり:床や屋根を支える横方向の骨組み)を強固なものにしなければなりません。それで選択したのが、三角形の鉄骨を組み合わせてロングスパンにする“トラス屋根” でした。ただ、意匠に合わせて最適なトラス配置をシミュレーションするのですが、これがなかなか難しかった。強度が足りないからといって、安易に部材の断面を大きくすると不経済になってしまう。意匠や設備など担当と話をしながら改善方法を考え、またシミュレーションする。その繰り返しの中で、なんとか最適解を見つけることができました。スケジュールもタイトでなかなか大変でしたが、お客様から「難しい設計だったと思います。よくやっていただきました」との言葉をいただくことができて、報われた気がしましたね」。

CHAPTER 5

だんだん畑に渋柿染。
地域らしさをデザインに。

どこにでもあるコンクリートの無愛想な庁舎ではなく、その地域らしさを反映した建物にすることがニュージェックの意匠としてのこだわりです。安川とともに新人の意匠設計担当として参加した秋山は、地域らしさについて以下のように語ります。
「木津川が流れ、山や高原もあり自然が豊か。お茶や野菜づくりが盛んな農村地帯である一方で、相楽ニュータウンなどの大規模住宅街や、文化・学術・研究といった最先端都市が共存する多様性のある地域。その中心として、災害時でも親しみを感じてもらえるような施設にしたいと考えました。

事務室
事務室

たとえば、この地域はお茶が有名。段々畑がひとつの風景であり、それを彷彿させるように建物のひさしが重なっていくようなデザインにしています。消防署らしい赤色は、あえてワンポイントの差し色に。内装では、オフィスの天井に木材を選びました。しかも、半分ほどしか貼っていません。一見、デザイン重視のように見えますが、これは隙間なく木を貼ると大地震の際に天井が落下するリスクが大きいから。また、万が一火災になったとき、煙が上がって天井の隙間に溜まっていくなど、安全性が高まるのです。室内の案内表示などのサインは、渋柿染という地域特有の染色を施した材料を使用しました。地域の方々に親しんでもらえればうれしいです」。
お客様である消防組合の方々に、ニュージェックデザインを気に入っていただき、ワンチームでつくりあげたことに大きな喜びと達成感を感じる。そう秋山は言います。

事務室
事務室

CHAPTER 6

長く愛される、
地域のシンボルへ。

消防署エントランス
消防署エントランス

令和3年5月から着手した基本設計は、令和4年5月末に完了。さらに令和5年1月末に実施設計を終えて、現在(令和6年秋)は施工段階へ。令和7年秋の竣工を目指して、安川や小田を中心に図面と施工を確認する工事監理を行っています。
「その土地の環境を丁寧に読み解き、さまざまな条件や要求を調和させることで、その施設らしさが建築に加わります。その結果、自然に寄り添い、地域に愛される施設となり、耐久性の高い建築が実現すると考えます」。耐久性の高さとは、構造の強さだけではなく、施設を使う人たちが建築に寄り添うことで、大切に扱われ、長きにわたって存在する建築になるのだ、と安川。地域のシンボルとなるであろう新庁舎の完成まで、あと少しです。

消防署エントランス
消防署エントランス
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