プロジェクト
ストーリー

PROJECT
STORY 05
平良港 平良港

平良港複合一貫輸送ターミナル整備事業

美しい海を守りながら港を再整備。
離島に、生活物資が
途絶えない毎日を。

OUTLINE

沖縄本島から南西約300kmに位置する宮古島。珊瑚礁とコバルトブルーの海に囲まれたこの離島では、生活や産業に必要な物資の輸送を、本島からの定期貨物船(RORO船)に頼っています。その窓口となる平良港(ひららこう)は、宮古島唯一の重要港湾でありながら、老朽化が進行。年々大型化する船舶に対応していないため、入港が難しく、荷役作業の効率が低い状況。また、沖縄県内の主要港湾では平良港だけ耐震強化岸壁が整備されておらず、大規模な地震が発生した際には、物資輸送が途絶える恐れもありました。こうした背景から2011年より、平良港のターミナル再整備プロジェクトが始動。ニュージェックは、その事業化検討から地震動の検討、岸壁の基本設計・実施設計 、公有水面埋立免許の申請に至るまで、一連の業務を担いました。

MEMBER

  • 西村 壮介 西村 壮介 経営企画部
    (港湾・海岸グループ兼務)
    2011年より管理技術者として本プロジェクトに参加。豊富な経験を活かしてプロジェクト全体を統括。
  • 牧野 綾 牧野 綾 交通・都市部門
    港湾・海岸グループ
    港湾計画チーム
    2011年からプロジェクトに参加。利用者へのヒアリングや観光客増大を踏まえた将来需要推計、投資効果の検討などを担当。
  • 平井 俊之 平井 俊之 交通・都市部門
    港湾・海岸グループ
    1996年の入社以来、地震や耐震に関する調査や技術開発に従事する「地震のスペシャリスト」。本プロジェクトでは地震動の作成とそれに関する現地調査を担当。
  • 吉川 慎一 吉川 慎一 交通・都市部門
    港湾・海岸グループ
    設計パートの管理技術者として、メンバー最大8名を配置して設計業務を主導。持ち味の発想力を活かして、耐震強化岸壁の設計などを手掛けた。
  • 竹内 麻衣子 竹内 麻衣子 交通・都市部門
    港湾・海岸グループ
    沿岸環境チーム
    埋立工事に必要な願書や、水質・大気・騒音振動等の環境影響評価を行った環境図書の作成などを担当。設計チームと連携をとり、スケジュール短縮に貢献。

CHAPTER 1

悲願の平良港リニューアルへ。

宮古島の物資輸送の玄関口、平良港。そのリニューアルは、島民のみなさんにとって長年にわたる願いでした。課題は大きく2つ。大型化する貨物船舶に対応していないこと、耐震強化岸壁が未整備であること。この課題によって、平時の物流効率が低いうえに、大規模地震時に港湾の機能が停止する恐れも。宮古島市ではこうした課題を克服する港湾整備を国に求め続けていましたが、事業化には至りませんでした。そのような状況で迎えた2011年。ニュージェックは、平良港を管轄する沖縄総合事務局のパートナーとなり、事業化に向けた整備計画を検討。悲願の平良港リニューアルへ!私たちの挑戦が始まりました。

ニュージェックの主な取組み

  • 2011年
    事業化検討(第1バース)
  • 2012年
    地震動の作成
  • 2012年
    岸壁(第1バース)の基本設計・実施設計
  • 2016年
    事業化検討(第2バース)
  • 2016年
    岸壁(第2バース)の基本設計・実施設計
  • 2016年
    公有水面埋立申請(第2バース)
  • 2017年
    「平良港漲水地区複合一貫輸送ターミナル」の暫定供用開始
  • 2021年
    事業再評価(GPSを用いたターミナル内荷役作業の実態調査により当初の想定していた効果の発現状況を確認)

CHAPTER 2

独自視点で情報を集め、
必要性を証明せよ。

「港湾の整備は数百億円単位の予算がかかる公共事業。事業化を認めてもらうには、それだけの投資をする価値があるということを、第三者機関である『交通政策審議会 港湾分科会』等に認めてもらわなければなりません。それに加え、全国の港がそれぞれ課題を抱えており、それぞれが国に再整備を要請している中で事業化を勝ち取るには、いかに独自の視点から整備の必要性を訴えられるかが重要です。」そう語るのは、プロジェクトの管理技術者を務めた西村。1994年の入社以来、数々の港湾施設の計画・設計を担っています。独自情報を求めて、西村は頻繁に宮古島を訪れました。
ふ頭に所狭しと並べられたコンテナ、近隣の道路まではみ出したシャーシ。スペースが限られる中を、フォークリフトやトレーラーヘッドが右往左往して通り道を探し出し、職人技ですり抜ける。平良港の荷役作業は、想像していた以上に非効率で危険な状況でした。現場を見たら、課題も再整備の必要性も明らか。問題は、この状況を資料だけでどれだけ伝えられるかです。
西村はふ頭で働く人たちにヒアリングを行い、ストップウォッチを手に荷役作業にかかる時間を測定しました。さらに、長年の経験から、平良港だけでなく近隣の港湾に目を向けました。
「同様の荷役作業を他港で行った場合、どれくらい時間がかかるのか。比較対象が欲しかったのと、平良港の荷役作業効率の低さが、沖縄の物流に何かしらの影響を与えているのではないかと考えたのです。」(西村)

  • ふ頭用地の混雑状況
    ふ頭用地の混雑状況
  • ふ頭用地内からあふれた貨物
    ふ頭用地内からあふれた貨物
  • 荷役作業の混雑状況
    荷役作業の混雑状況

CHAPTER 3

事業化のカギは島の外にあり。
RORO船を追いかけろ。

近隣港の調査をメインで任されたのは、西村のチームに所属する当時入社3年目の牧野でした。ストップウォッチとカメラをカバンに詰めて、那覇港—平良港—石垣港の航路をRORO船と共に移動。各港湾の様子と、荷役作業に要する時間を記録しました。
「正確に比較するのなら条件をなるべく揃えたほうがいいと思い、自分から1隻の船舶で測定することを提案しました。体力的に厳しかったですが(笑)、平良港の現状を明確に示すことはできたと思います。」(牧野)
また、西村の予想した通り、平良港での荷役作業の遅れは、石垣港にも影響を与えていました。
「本来なら夕方到着予定だった便が翌朝になったり、そのまま悪天候になると欠航が続いてしばらく物資が届かないこともこの地域では珍しくありません。平良港の整備は宮古島のみならず、沖縄県全体の物資の安定輸送のために必要だと結論づけました。」(牧野)
実際、牧野は石垣港を調査中に定期船が欠航し、物資が届かない状況を経験。
「たった1日欠航しただけで、コンビニやスーパーから本当に物がなくなるのです。もし災害が起きて岸壁が壊れたら…。何が何でも事業化しなければという気持ちが湧きました。」(牧野)
牧野は空っぽの商品棚にカメラを向け、その写真も資料に付け加えました。こうした調査をもとに、沖縄総合事務局と何度も議論を重ねながら整備計画書を作成。その後も、『交通政策審議会 港湾分科会』に向け、何度もフィードバックをいただきながら計画の精度を高めていき、およそ1年がかりで悲願の事業化を果たしました。

RORO定期船のルート
RORO定期船のルート

CHAPTER 4

データ不足のピンチに、
地震動マニアが集結。

事業化が決まると、耐震強化岸壁の設計にむけて地震動の作成が始まりました。地震動とは、地震によって引き起こされる地面の揺れのこと。ダムや発電施設なども手掛けるニュージェックには、この地震動の予測に長けた技術者が多数在籍しています。平井もその一人。長年、ダムの振動測定や発電所斜面の地震応答解析などを手掛けてきました。
「平良港の地震動予測を行ったのは2012年。前年に東北地方太平洋沖地震が発生し、その研究から、断層のどの部分からエネルギーが強く放出されるのかなど、揺れのメカニズムについて新たに解明された事実がいくつもありました。平良港では、それらをいち早く取り入れて地震動を作成することにしたのです。」(平井)
ところがシミュレーションの際に、提供していただいたボーリング調査のデータが不十分であることが発覚。そこで平井は、社内でも生粋の「地震動マニア」として知られる2名の技術者とともに、すぐさま現地調査へ。一定間隔に受振器を設置して地面をハンマーで叩き、その揺れを測定する「表面波探査」と、風や波などによる自然な揺れを観測する「常時微動アレイ観測」という手法を用いて、地表調査から地下構造の推定を行いました。平井は、当時をこう振り返ります。
「楽しかったですね。普通なら、データが足りなければ慌てるところだと思うのですが、“やった、調査ができるぞ!”ってみんな張り切っていました(笑)。技術好きが集まったニュージェックらしいエピソードですよね。自分たちで地下構造を調べる建設コンサルタントは、そう多くはないと思いますよ。」(平井)

  • ハンマー起振による地表調査の様子
    ハンマー起振による地表調査の様子
  • 地表調査より推定されたせん断波速度構造
    地表調査より推定されたせん断波速度構造

CHAPTER 5

地元のもろい岩石で、
耐震強化岸壁をつくれ。

平井らが作成した地震動をもとに、2012年からは耐震強化岸壁の設計がスタート。手掛けた吉川には、あるこだわりがありました。
「耐震性を高めるには地盤改良といって、セメントなどを混ぜ込んで基礎地盤の強度を高めることが一般的ですが、そうした場合、周辺の海水に濁りが発生してしまい、環境に負荷がかかってしまいます。宮古島のきれいな海に影響がでないよう、できるだけ大規模な地盤改良を必要としない設計を心がけました。」(吉川)
また、離島であるがゆえに、資材や建機を取り寄せると輸送コストがかさむ。そのため、島内の資材を使い、島内の施工会社だけで完結できる工法を選ぶ必要もありました。こうした制約がある中、吉川が採用したのはケーソン工法。海底に捨石で基礎をつくり、その上にケーソンと呼ばれる巨大なコンクリートの箱を置き、中に砂利などを詰め込み安定化。岸壁の自重と摩擦力で外力に耐える構造です。
「ケーソン工法は特別な工法ではないので、それゆえに、現場で完結することができます。」(吉川)
しかし、1つ問題がありました。それは基礎に使用した「白石(しろいし)」という石材です。白石とは、宮古島でよく採れる琉球石灰岩由来の岩石。手に入りやすい利点がある一方で、その性質は脆く、重さを加えるケーソン工法には不向きでした。そこで吉川は、ケーソンの幅を大きくすることで底面反力を分散させて、白石にかかる圧力を抑制。さらに、一部の整備済みの区間では、当初の想定より大型の旅客船を受け入れるため、前面水深の1m増加が必要となり、より厳しい条件でした。このため、ケーソンの上に設置する上部工を4m陸側に伸ばすことで重心を陸側へずらし、強い揺れが生じた場合も、海底の白石に過度な圧力が加わらないように設計しました。また、この設計に関連する業務で、発注者である沖縄総合事務局 平良港湾事務所から業務・技術者表彰を受賞。沖縄の地方新聞にも、吉川のインタビューが取り上げられました。
「宮古島のみなさんの平良港リニューアルに対する期待の大きさを感じました。地域の発展に少しでも貢献できたのならうれしいです。」(吉川)

増深改良区間の断面図
増深改良区間の断面図

CHAPTER 6

設計と埋立願書出願を並行。
着工を2ヶ月前倒し。

ターミナルの航空写真
ターミナルの航空写真

今回のプロジェクトでは、海を埋め立ててターミナルを拡張するため、公有水面埋立願書の出願を行う必要があり、その願書作成業務もニュージェックが引き受けることになりました。当時、日本各地の港では競うように大型クルーズ船の誘致を行っており、平良港でも2020年までに一部のバース(岸壁)を供用して、その誘致合戦に加わりたいという思いがありました。そのため、本来であれば設計が終わった後から行う願書の作成を、設計と同時進行で実施。業務を担当した竹内は、当時を振り返って言います。
「願書には、設計概要のほか、埋立てが必要な理由や、埋立工事や埋立地の存在が水質・大気・騒音振動などの環境に影響が出ないかなどいくつもの項目を取りまとめる必要があります。しかしながら、埋立の土砂量や施工方法など、シミュレーションをする上で必要な情報がなかなか揃いませんでした。また、作業機械や車両の台数、工程などが変更されると、その度に関連するさまざまな項目を作り直すこともあって、いろいろと苦労しました。」(竹内)
それでも何とか同時進行を実現できたのは、計画から設計までをすべてニュージェックで担当できたからだと竹内は言います。
「“早くこの数値ください”と気軽にお願いできますし、社内に平良港に携わったメンバーがたくさんいるので、わからないことがあっても誰かしらに聞けば答えが得られる。密に連携が取れたからこそ、同時進行は実現できたと思います。」(竹内)
設計終了と同時に、公有水面埋立願書の出願へ。チームワークが、およそ2カ月の短縮を実現させました。

ターミナルの航空写真
ターミナルの航空写真

CHAPTER 7

感動の暫定供用式。
2024年の全面供用へ。

2017年、供用予定である440mのバースのうち295m(うち220m耐震)の供用が暫定的に開始。1万トン級のRORO船や5万トン級のクルーズ船の接岸がすでに可能になっています。その暫定供用式に、西村の姿がありました。
「これまでのキャリアの中で、供用式に招待されたのははじめてのこと。非常に光栄でした。式典の際に一隻目のRORO船が入港して、無事に接岸したときは万感の想いでした。でも、これで終わりではありません。すべての工事が無事に終わり、島民のみなさんに物資が途絶えない生活を提供できたときに、心からの達成感を味わえると思います。」(西村)
完全供用は2024年。ニュージェックは引き続き、平良港をはじめとする沖縄県諸港の港湾整備に携わり続けていきたいと思います。

  • 平良港漲水地区複合一貫輸送ターミナルの暫定供用式
    平良港漲水地区複合一貫輸送ターミナルの暫定供用式
  • 平良港漲水地区複合一貫輸送ターミナルの暫定供用式
    平良港漲水地区複合一貫輸送ターミナルの暫定供用式
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