STORY 09

大阪・関西万博会場の
電気設備設計
盤石の電力供給で、
人工島での万博開催を支える。
OUTLINE
大阪にとって55年ぶりの開催となる、大阪・関西万博。155haという壮大な会場には、世界各国や国内企業のパビリオンなどが建ち並び、未来社会を象徴する先進的な空間が誕生します。その運用に欠かせない電気施設の設計を、ニュージェックが担当しました。会場となる夢洲(ゆめしま)の大部分は、万博開催が決まった2018年時点でインフラが未整備であったため、イベント自体の構想と、電力供給計画が並行して進められました。不確定要素の多い中進む電気設備の設計。一度決まった仕様も幾度となく変わり、さらには新型コロナウイルスの蔓延により打ち合わせが難航するなど。華やかなイベントの裏には、技術者たちの奮闘がありました。
MEMBER
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立花 靖史 電気通信グループ 2005年の愛・地球博でも電気設備設計を担当。今回は管理技術者として全体の指揮をとりながら、持続可能な電力供給の設計に取り組んだ。
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佐藤 裕太 電気通信グループ
電気通信チーム 道路やトンネル、港湾などの電気通信設備設計で経験を重ね、入社5年目で本プロジェクトに参加。万博会場の非常用発電設備を設計。 -
山中 慎太朗 建築グループ
建築電気設備チーム 公共施設やプラント系施設の電気設備設計を数多く手がける。今回は、防災設備技術者として会場内施設の防災設備設計を担当。
ニュージェックの主な取り組み
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- 令和3年
(2021年) -
- 万博会場内の電源供給施設(変電設備、非常用発電設備、配電設備)の基本設計
- 防災設備(非常放送、自動火災報知設備)の基本設計
- 令和3年
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- 令和4年
(2022年) -
- 万博会場内の電源供給施設(変電設備、非常用発電設備、配電設備)の詳細設計
- 防災設備(非常放送、自動火災報知設備)の詳細設計
- 令和4年
CHAPTER 1
1つの街のような会場に、
安定した電力供給を。

2025年の開催がいよいよ間近に迫った大阪・関西万博。会場となる夢洲(ゆめしま)は、大阪市のベイエリアに浮かぶ面積約390ヘクタールの人工島です。島の東部に高水準のコンテナ物流拠点があるものの、多くの区域が未開発であったことから会場地に選ばれ、ここに155ヘクタール(東京ドーム30個分)に及ぶ会場が作られることになりました。2021年、その電気設備設計をニュージェックが落札。一大プロジェクトが動き出しました。
「万博には世界150ヵ国以上のパビリオンが建ち並び、1日28.5万人の来場者が訪れる想定しています。そうした会場を未開発地区に築くというのは、ひとつの街をつくるようなものでした」。そう語るのは、このプロジェクトで管理技術者を務めた立花です。
立花は、2005年に愛知県で開催された愛・地球博でも、一メンバーとして電気設備の設計を担当した経験があります。
「あのときは、規模の大きさや『万博特有の難しさ』に翻弄されてばかりでした。その経験を活かして、今回は監理技術者としてプロジェクトを成功に導くのはもちろん、自分自身でも納得のいく仕事をしたい。20年前のリベンジの気持ちもありました」。(立花)

CHAPTER 2
先行きが読めない中、
電気のルートを描く。
電気設備の設計は、万博会場全体に、必要な電力を安定供給するための基盤を整えることです。変電設備からパビリオンなどの各施設へ電力を送り、適切な電圧・電流で配電されるように配線を計画します。
しかし、大規模な国際イベントである万博ともなると、様々な国や企業が参加し、新しいアイデアが次々に持ち込まれるため、会場のレイアウトや設備の仕様が変わり続けるもの。そうした状況下で、変圧器や配電盤の設置場所を決め、安全で効率的な電力供給ルートを描くことは容易ではありません。立花の言う「万博特有の難しさ」とは、まさにここにあります。
「一度確定した設計が、次の会議で変わることもよくありましたし、計画そのものがなかなか決まらないこともありました」と立花は当時を振り返ります。それでも彼は、冷静でした。「愛・地球博でも同じような経験がありましたので、仕様変更を前提に設計を進めました」。

例えば、ある変圧器から複数のパビリオンに電力を供給する際、直接ルートを設定するのではなく、まず「幹」となる配電ルートを設定し、そこから各施設へ枝分かれさせる。この「幹と枝」の手法により、仕様変更があった際も、枝分かれ部分の修正だけで対応できます。
「ガス管や水管なども同じ状況で設計が進められていたので、極力影響を与えないように配慮しました」と立花。柔軟な電気設計の裏には、愛・地球博での経験が確かに息づいていました。

CHAPTER 3
万博にふさわしく、
設計もサステナブル。
万博の開催期間は、およそ6ヶ月。試行錯誤して設計した電気設備も、半年後には撤去しなければなりません。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げる大阪・関西万博にふさわしく、立花が取り組んだのは、リサイクルを前提とした設計でした。

「まず、可能な限り設備をレンタルで賄うことにしました。また、配電変圧器についても通常の大型設備ではなく、小型の変圧器を複数設置する設計を採用しました。大きな変圧器1台だと次の使い道が限られますが、小型であればさまざまな施設で再利用の道があるからです。」(立花)
万博という一度きりのイベントにとどまらず、その先を見据えて工夫を積み重ねる。その挑戦こそ、持続可能な社会への一歩になるでしょう。

CHAPTER 4
海に囲まれた万博の、
災害リスクに備える。
万博会場の電力供給には、日常の安定運用はもちろん、災害や停電といった非常時にも安全と機能を確保する設計が求められます。万が一の事態に備えた「非常用発電設備」の設計を任されたのは、当時入社5年目の佐藤でした。
佐藤はこれまで、道路やトンネル、港湾施設といった電気設備の設計を手がけてきましたが、万博のような大規模なプロジェクトは初めての経験。「最初は規模感が全く掴めず、正直な話、かなり不安でした」と当時の心境を語ります。

まず、佐藤が取り組んだのは、非常時にどの施設にどれだけの電力を確保するかという優先順位の選定でした。避難誘導のための照明やスピーカー、VIPエリアなど、限られた電力の中で効率的に供給するために、関係者と協議を重ねました。「必要に見える設備でも、全ての照明をつける必要があるか、部分的で良いかを何度も検討し、供給範囲や稼働時間を調整しました」と佐藤。夢洲は人工島であり、万が一電力が途絶えれば孤立する恐れもあるため、大型発電機2台を採用。「普段扱う発電機よりもはるかに大きなもので、非常時のみに使用される装置としては異例の規模です」と語ります。
試行錯誤の末に完成した非常用発電設備は、万が一の事態においても来場者の安全を守る備えができました。「何も起こらずに終わることが一番ですが、それでも確実な備えがあるという安心感を提供できることにやりがいを感じます。」(佐藤)

CHAPTER 5
逆算の、火災報知システム。
万博会場の安全を守るうえで、火災の発生をいち早く察知し、迅速に対応するための「火災報知設備」の存在も欠かせません。その設計を任されたのが建築グループの山中です。
「通常の火災報知設備は1つの建物内で、例えばどのフロアで火災が発生したのか感知し、館内のアラームを鳴らすとともに、消防と連携する仕組みです。しかし今回は、150以上のパビリオンが点在する広大な敷地の火災を把握するので、町の消防システムのようにすべての火災信号を一元管理し、中央監視室で全体の状況を把握できるようにする必要がありました」と山中は説明します。

圧倒的な規模に加えて、電気設備と同様に仕様が確定しないことも大きな課題でした。「中央監視室は、各建物からどのような火災信号が送られてくるか把握した上で設計することが一般的ですが、今回は各国がそれぞれのペースで設計を進めているため、そもそも何階建てのどのような建物になるのかさえもわからない状況でした」。さらに、設計時は新型コロナウイルスが蔓延していた真っ只中で、設計者同士が対面で調整するのも難しい状況でした。
そこで山中は、通常とは逆のアプローチを採用。「会場全体の基準を先に設定し、各パビリオンがその基準に合わせて接続できるように設計しました。」と山中は語ります。この逆転の発想により、防災システムは順調に設計が進みました。

CHAPTER 6
万博開催を、
技術で支えた誇りを胸に。
現在夢洲では、2025年に向けて、急ピッチで工事が進められています。
管理技術者を務め、自身も配電などの設計を手がけた立花は、「まさか人生で2度も万博に関わるとは思いませんでした。家族と会場を見に行ける日が楽しみです」と、再び万博に携われたことに深い感慨を抱いています。
非常用発電設備を担当した佐藤は、「万博という国際的な取り組みに携わることができたのは誇りです。初めてのことが多く、技術者として貴重な経験ができました」と、成長を噛み締めます。
また、広大な会場全体を一元管理する火災報知設備を手がけた山中も「これだけ大きな会場全体の安全に貢献できたことは誇りです。でも、自分の設計した装置が作動せず、何事もなく万博が終わることを願っています」と口元を引き締めます。
それぞれの思いを胸に、技術者たちは2025年の万博の開幕を待ちながら、さらなる挑戦に向けて進んでいます。